Bruno Mars 完全版 ── 4歳の「リトル・エルヴィス」から16個のグラミーまで|アーティスト歴史
Bruno Mars「24K Magic」(2016年)。この曲を表題に据えたアルバムが、2018年の第60回グラミー賞で6部門を総なめにした。
数字で見る Bruno Mars
・グラミー賞 受賞 16回
・グラミー賞 ノミネート 36回
・Big 4(主要4部門)受賞 Album of the Year 1回/Record of the Year 3回/Song of the Year 2回
・第60回グラミー賞(2018年) ノミネート6部門をすべて受賞(全制覇)
・第64回グラミー賞(2022年) Silk Sonic「Leave the Door Open」でノミネート4部門をすべて受賞
・Record of the Year 受賞回数 3回(歴代最多タイ)
・本名 Peter Gene Hernandez
・生年月日・出身 1985年10月8日/米ハワイ州ホノルル
・ステージデビュー 4歳(エルヴィス・プレスリーのものまね)
・スタジオ・アルバム 4作(ソロ3作+Silk Sonic 1作)+2026年『The Romantic』
・全米1位アルバム 2作(『Unorthodox Jukebox』/『The Romantic』)
・スーパーボウル ハーフタイムショー 2014年(第48回)にヘッドライナー、2016年に再登場
はじめに ── 「うまい」だけでは説明がつかない人
Bruno Mars を説明するとき、多くの記事は「歌がうまい」「ダンスがうまい」で止まる。だがグラミー賞の投票会員が繰り返し彼を選び続けてきた理由は、そこではない。
彼は歌手であると同時に、ソングライターであり、プロデューサーであり、アレンジャーであり、バンドリーダーでもある。他人の曲を書いて全米1位に送り込んだ経験と、自分の曲を自分で歌って全米1位を獲る経験の、両方を持っている。この「作る側と出る側を同時にやる」という構造こそが、彼の16個のトロフィーの中身である。
この記事では、ホノルルの4歳の子どもから、2026年に13年ぶりの全米1位アルバムを出すまでを、時代順に追う。
第1章|1985-1999 ホノルル ── 4歳の「リトル・エルヴィス」
1985年10月8日、ハワイ州ホノルル生まれ。本名 Peter Gene Hernandez。父ピートはブルックリン出身のプエルトリコ系ラテン・パーカッショニストで「Dr. Doo-Wop」と呼ばれた人物。母ベルナデットはフィリピン系のシンガーであり、フラダンサーでもあった。
つまり彼は「音楽一家に生まれた」のではなく、両親がステージに立つ現場そのもので育っている。家族バンド The Love Notes の一員として、4歳でエルヴィス・プレスリーのものまねをして舞台に上がった。ホノルルでは「リトル・エルヴィス」として知られ、1992年の映画『ハネムーン・イン・ベガス』にも同役で出演している。
10代に入るとマイケル・ジャクソンのものまねでレビューに出演。ピアノ、ギター、ベース、パーカッションを独学で覚えた。ここが重要で、彼は最初から「バンドを一人で回せる」技術を持っていた。後年のプロデューサー業は、この時期の延長線上にある。
第2章|2003-2006 ロサンゼルスへ ── そして契約を切られる
高校を卒業した17歳でロサンゼルスへ移る。ほどなく Universal Motown と契約したが、ヒットを出せないまま契約を解除された。
この「メジャーに拾われて、そのまま落とされた」経験は、彼のキャリアの分岐点である。歌手として売り出してもらう道が閉じたとき、彼は自分で曲を書いて他人に売る道を選んだ。
第3章|2007-2009 The Smeezingtons ── 裏方としての成功
フィリップ・ローレンス、アリ・レヴィンと組んだソングライティング/プロダクション・チーム The Smeezingtons として、Flo Rida、Cee-Lo Green、Snoop Dogg らに楽曲を提供する。
ここで彼が身につけたのは「他人の声を最大化する設計」である。自分が歌わない前提で曲を作ると、メロディの置き場所も、コード進行も、サビの入り方も変わる。この訓練が、後に自分名義の楽曲で効いてくる。
第4章|2010 客演で表舞台へ ── 「Nothin’ on You」「Billionaire」
B.o.B「Nothin’ on You」、Travie McCoy「Billionaire」で客演として声を出し、いずれも大ヒット。「曲を書いた人」ではなく「この声の人は誰だ」という認知が一気に立ち上がった。
裏方から表に出るとき、彼は自分の曲で無理に押し出そうとしなかった。他人の曲の一番おいしい場所に自分の声を置いて、聴き手に見つけさせている。
第5章|2010 『Doo-Wops & Hooligans』 ── デビュー作で全米3位
「Just The Way You Are」。第53回グラミー賞で Bruno Mars に初のトロフィーをもたらした曲。
2010年10月、デビュー・アルバム『Doo-Wops & Hooligans』を発表。Billboard 200 で最高3位。「Just The Way You Are」「Grenade」「The Lazy Song」を収録し、シンガーとしての地位を確立した。
タイトルにある通り、1950-60年代のドゥーワップへの目配せが全編にある。古い形式を、当時の音で再現するのではなく、現代のポップスとして成立させる ── これ以降、彼の作品はすべてこの方法論で作られている。
第6章|2011 初グラミー ── Best Male Pop Vocal Performance
第53回グラミー賞(2011年)で「Just The Way You Are」が Best Male Pop Vocal Performance を受賞。7部門にノミネートされての1勝だった。
この年の受賞は「歌唱」に対するものである。作り手としての評価が本格的に来るのは、この7年後になる。
第7章|2012 『Unorthodox Jukebox』 ── 全米1位と、幅の証明
「Locked Out Of Heaven」。The Police を思わせるニューウェイヴ感と、彼のポップ職人としての設計が同居している。
2012年12月7日、2作目『Unorthodox Jukebox』を Atlantic からリリース。2013年3月に Billboard 200 で1位に到達した。レゲエ、ファンク、ニューウェイヴ、バラードが同じアルバムに同居し、「Bruno Mars はバラードの人」という前作の印象を自分で壊しにいった作品である。
第56回グラミー賞で Best Pop Vocal Album を受賞。
第8章|2014 スーパーボウル ── 世界最大のステージ
2014年、第48回スーパーボウルのハーフタイムショーにヘッドライナーとして出演。バンドを従え、ドラムから入るという構成で、「歌って踊れる人」ではなく「バンドを率いる人」であることを1億人規模の視聴者に見せた。
2016年にも Coldplay のショーへゲスト出演。ハーフタイムショーはアメリカのポップスにおける事実上の格付けであり、ここに2度立った時点で彼の位置は決まった。
第9章|2015 「Uptown Funk」 ── 14週連続1位
Mark Ronson feat. Bruno Mars「Uptown Funk」。Billboard Hot 100 で14週連続1位。
Mark Ronson との「Uptown Funk」は、Hot 100 で14週にわたって首位を維持した。第58回グラミー賞で Record of the Year と Best Pop Duo/Group Performance を受賞。
この曲の重要な点は、彼が「客演」の立場でRecord of the Year を獲ったことである。自分の名義でなくても主要部門を持っていける ── その事実が、次の『24K Magic』の評価を準備した。
第10章|2016 『24K Magic』 ── 90年代R&Bへの回帰
2016年11月18日リリース。Billboard 200 最高2位。ニュージャックスウィング、90年代のR&B、ファンクを、現代のミックスで鳴らした9曲入りの短いアルバムである。
曲数を絞ったのは偶然ではない。捨て曲を置かないという判断であり、結果としてこのアルバムは、ノミネートされた全部門で勝つことになる。
第11章|2018 第60回グラミー賞 ── 6部門、全制覇
「That’s What I Like」。第60回グラミー賞で Song of the Year を受賞した曲。
2018年の第60回グラミー賞で、Bruno Mars はノミネートされた6部門をすべて受賞した。Album of the Year(24K Magic)、Record of the Year(24K Magic)、Song of the Year(That’s What I Like)という主要3部門に加え、Best R&B Album、Best R&B Song、Best R&B Performance。
Big 4 のうち3つを同じ年に持っていくのは、グラミー賞の歴史でも数えるほどしかない。しかも Song of the Year は「歌唱」ではなく「作曲」に与えられる賞である。ここで彼は、シンガーとしてではなくソングライターとして頂点に立った。
第12章|2021 Silk Sonic ── Anderson .Paak との共同名義
Silk Sonic「Leave the Door Open」。第64回グラミー賞で4部門を受賞した。
2021年、Anderson .Paak と Silk Sonic を結成し、アルバム『An Evening with Silk Sonic』を発表。Billboard 200 最高2位。1970年代のソウルを、生演奏とアナログ的な質感で再現した作品である。
先行シングル「Leave the Door Open」は第64回グラミー賞(2022年)で Record of the Year、Song of the Year、Best R&B Song、Best R&B Performance の4部門を受賞。ノミネートされた全部門で勝つという結果を、彼は4年のあいだに2度やってのけた。
第13章|2024-2025 「Die With A Smile」 ── Lady Gaga との共作
Lady Gaga, Bruno Mars「Die With A Smile」。第67回グラミー賞で Best Pop Duo/Group Performance を受賞。
2024年に発表された Lady Gaga とのデュエット「Die With A Smile」は世界的なヒットとなり、2025年の第67回グラミー賞で Best Pop Duo/Group Performance を受賞した。
第14章|2026 『The Romantic』 ── 13年ぶりの全米1位
2026年2月27日、新作『The Romantic』をリリース。Billboard 200 で初登場1位を記録し(2026年3月14日付)、『Unorthodox Jukebox』以来13年ぶり、通算2作目の全米1位アルバムとなった。あわせて Artist 100、Billboard 200、Hot 100 の3チャートで同時に首位に立つという、キャリア初の記録も達成している。
さらに2026年のグラミー賞ではパフォーマーとして出演。デビューから16年が経ってなお、彼は「現役の主役」として舞台に立っている。
グラミー賞 完全受賞歴
■ 第53回(2011年) Best Male Pop Vocal Performance ──「Just The Way You Are」
■ 第54回(2012年) Best Pop Vocal Album ──『Doo-Wops & Hooligans』
■ 第56回(2014年) Best Pop Vocal Album ──『Unorthodox Jukebox』
■ 第58回(2016年) Record of the Year / Best Pop Duo/Group Performance ──「Uptown Funk」(Mark Ronson feat. Bruno Mars)
■ 第60回(2018年) Album of the Year / Record of the Year / Song of the Year / Best R&B Album / Best R&B Song / Best R&B Performance ── ノミネート6部門を全制覇
■ 第64回(2022年) Record of the Year / Song of the Year / Best R&B Song / Best R&B Performance ──「Leave the Door Open」(Silk Sonic)
■ 第67回(2025年) Best Pop Duo/Group Performance ──「Die With A Smile」(Lady Gaga & Bruno Mars)
通算:受賞16回/ノミネート36回。
Big 4(主要4部門)の内訳
・Album of the Year ── 1回(2018年『24K Magic』)
・Record of the Year ── 3回(2016年「Uptown Funk」/2018年「24K Magic」/2022年「Leave the Door Open」)。歴代最多タイ。
・Song of the Year ── 2回(2018年「That’s What I Like」/2022年「Leave the Door Open」)
・Best New Artist ── 受賞なし(2011年にノミネート)
全アルバム一覧
■ Doo-Wops & Hooligans 2010年10月/Billboard 200 最高3位
■ Unorthodox Jukebox 2012年12月7日/Billboard 200 1位
■ 24K Magic 2016年11月18日/Billboard 200 最高2位
■ An Evening with Silk Sonic(with Anderson .Paak) 2021年11月/Billboard 200 最高2位
■ The Romantic 2026年2月27日/Billboard 200 1位
まとめ ── 「職人」がグラミーに強い理由
Bruno Mars の16個のグラミーを並べると、シンガーとしての賞は初期に集中し、そこから先はソングライター/プロデューサーとしての賞に移っていくことが分かる。Song of the Year を2回、Record of the Year を3回。これは「歌がうまい人」の獲り方ではない。
グラミー賞の投票会員は音楽業界の実務者である。彼らが評価するのは、完成した音がどう作られているかだ。Bruno Mars が繰り返し勝ってきたのは、彼が最初から「作る側の人間」として見られてきたからにほかならない。
関連リンク
G Association Japan(GAJ)は、日本の音楽クリエイターがグラミー賞に正しく向き合うための情報と実務を提供しています。
https://www.brushmusic.com/gaj


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